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東京高等裁判所 昭和35年(ラ)620号 決定 1960年9月26日

抗告人 山田イヨ

相手方 東京都台東商工信用組合

主文

原決定を取消す。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

理由

一、抗告理由、別紙記載のとおり。

二、当裁判所の判断。

本件競売期日の公告(記録七四、七五丁)には、賃貸借として昭和三十二年八月十四日登記された賃借人山本円重のための賃貸借を掲げてあるだけで、他に賃貸借あることの記載がない。又附属東京地方裁判所昭和三十三年(ケ)第四二七号不動産競売事件記録編綴の昭和三十三年四月十八日附賃貸借取調報告書(同記録七七丁)には本件競売物件につき全然賃貸借の関係なく所有者使用中と記載されているけれども、本件記録に編綴されている昭和三十四年十二月二十五日附鑑定人の評価書(記録三〇丁)及び同月二十四日附山田イヨの証明書(記録三一丁)によれば、その後本件土地の利用状況に変化を生じ、昭和三十四年十二月当時には木内ツヤその他の者にそれぞれ右土地の一部が賃貸されていることを推認することができる。そうして競売期日の公告に賃貸借を掲げさせるのは、競落人をしてあらかじめその承継しなければならない賃貸借を知ることによつて不測の損害を防止させるためであるから、競落人に対抗できない賃貸借の如きはこれを公告に掲げることを要しないものであるけれども、本件においては、右に示した賃貸借は、仮にそれが前記昭和三十三年(ケ)第四二七号事件における競売申立の登記簿記入の後に設定されたものであつて、同事件の債権者及び競落人には対抗できないものであつたとしても、そのために本件競売事件の競落人にも対抗できないものとは限らない。何となれば、本件競売手続は、競売申立債権者(相手方)のなした競売申立が、当時既に同一不動産につき東都実業株式会社の申立に係る前記競売事件の開始後であつたため、昭和三十四年十月九日右事件記録に添附され、その後同年十一月五日右事件が申立の取下により終了した結果、右記録添附により新たに競売開始決定の効力を生ずることにより開始したものであること記録上明らかなところ、このように記録添附が競売開始決定を受けた効力を生じた場合には、差押の効力もその時から将来に向つて新たに生ずるものであつて、従前の事件の差押の効力を承継するものではないからである。この場合にも登記簿には新たに競売申立の記入をなすことなく、従前の事件においてなされた申立の登記をそのままにしておくけれども、そのために後の事件における差押の効力が前の事件の差押の時に遡るものではない。従つて前の事件の差押の効力を生じた後に設定された賃貸借であつても、その設定の時期が後の事件の記録添附の前であるときは、なお後の事件の競落人に対抗することができる。そうして本件においては、前記鑑定人の評価書等提出の時期と右差押の効力発生の時期とは互に接近しているのであるから、右評価書等に記載の賃貸借は本件抗告における差押の効力発生以前に設定されたものであることを疑う余地が十分にあり(現に前記従前の事件の記録に編綴してある昭和三十三年四月十五日附鑑定人の評価書にも既に木内ツヤの賃借権についての記載がある。)もし右賃貸借が民法第六百二条に定める期間を超えないものであるならば、これを以て本件競売申立債権者である抵当権者(相手方)、従つて又本件の競落人にも対抗できることになる。そうして本件競売申立債権者は競売申立の際賃貸借の取調を原裁判所に申請したにもかかわらず(記録三丁)、執行吏にその取調をさせたことは記録上認められない。従つて原裁判所が右取調をなさず単に登記された賃貸借だけを掲げてなした本件競売期日の公告は違法であり、これに基いて手続を進行し競落を許可した原決定は失当である。よつてこれを取消し、本件を原裁判所に差戻すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 川喜多正時 小沢文雄 位野木益雄)

抗告理由

右当事者間の御庁昭和三四年(ケ)第一三三四号事件につき昭和三五年七月一八日競売がなされたが同月一九日競落許可決定がなされたが右競売はその期日の通知を債務者代理人坂本泰良同野田宗典になさずして行われ又御庁昭和三三年(ケ)第四二七号事件の賃借権の調査をそのまま採用し、その間一年以上の期間を経過したにもかかわらず何等の調査をしない手続上重大な瑕疵がある。よつて右違法な手続による競売は無効又は取消さるべきであるが、もし御庁に於てそのまま手続が進行するならば債務者は重大な損害を受けるので右競落許可決定に対しその取消を求めるため本申立に及んだ次第である。

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